MCUきっての水先案内人スコットがまたも観客をあたらしい世界へ導く『アントマン&ワスプ:クアントマニア』感想

『アントマン&ワスプ:クアントマニア』が公開された。

MCU的にはフェイズ5の幕開けの1作であり、現状アントマン単独作の3作目(アントマン&ワスプとしては2作目)である。3作目といっても3部作というわけでもないと思うのでスコット・ラングの物語の完結編でもないと思われる。

せっかく見てきたので感想を書いていこうと思う。当然ネタバレはする。

ザックリ感想

決してつまらないわけではないが、ものすごく面白いという感じでもない。結構事務的な映画だったな。というのが率直な感想。なんというかインフィニティ・サーガが幕を閉じ、マルチバース・サーガの幕が開け、なんだかよくわからない内にフェーズ4が終わってしまった中、「今後MCUの世界はこのように広がっていきますよ。」ということを見せてくれた1作だったな。と。

フェーズ4以降のMCU作品は見ているとただでさえ描くことが多く、

  • 『エンドゲーム』後の世界について
  • その作品そのもののストーリーとキャラクター
  • (必要であれば)作品間の繋がり
  • (必要であれば)世界観の広がり
  • ポストクレジットでの今後の展開

など、ざっと思いつくことを書き出してもやることが多い。本作はそのほとんどをやらなければならないのに関わらず、上映時間2時間5分という最近のMCU作品にしては比較的長くはない尺であったため、せわしないし忙しいし、どれも若干中途半端になっていたように感じた。

が、キャラクターは敵も味方も魅力的でやはりMCU劇場作品の一定品質のようなものは満たしていたように思う。では、なぜ本作で「やるべきこと」が多かったのか、自分なりに考える。

『クアンタマニア』から見ればいいんじゃない?という選択肢

MCUはインフィニティ・ウォー、エンドゲーム以降オタクたちを散々悩ましたであろう「MCUどこから見ればいいんすか問題」。もちろん、MCU1作目『アイアンマン』というのが一番シンプルな答えだが、そこから最新作まで20作近くあり、途中で心が折れることを考えたら『アベンジャーズ』か。いや、アベンジャーズすら10年近く経っている。入りやすいが見やすくない…もういっそ『インフィニティウォー』から見ればいいんじゃないでしょうか。みたいな新規が入りずらいという課題を常に抱えている。

とにかくシリーズが長く続き、その世界は広がり続け、キャラクターは増え続ける。しかも映画だけでなくドラマシリーズまで密接に関わってくるという。新たなファンを気軽に獲得しようとするにはその世界観は少々複雑になり過ぎている。

ここらで「今後の展開に着いていくためには、ここから見ればいいんじゃない?」と言える1作がマーベルスタジオ側も欲しかったのではないだろうか。それが本作『アントマン&ワスプ:クアントマニア』であったのかな。と。ここからの物語を見るにあたってインフィニティ・サーガを見返すことを強要したくない。というのもあると思う。

MCUの水先案内人・アントマン

以前から『アントマン』シリーズもといアントマン=スコット・ラングはMCU世界の橋渡し的な役割も持った存在であったと今となっては思うようになってきた。

1作目はエイジ・オブ・ウルトロン後の一旦クールダウン的な作品であり、この時点でもひとつのMCUへの入り口であったと思う。「量子世界」の提示は2作目アントマン&ワスプを経てサノスに勝つ切り札となっていく。スコット・ラングはシビルウォーでもスパイダーマン(ピーター・パーカー)と共に殺伐とした作風の中で緩衝材のような役割も持っていた。

フェーズ4でインフィニティ・サーガの余波とマルチバース・サーガの風呂敷を広げてのフェーズ5幕開け、ここでシリーズ全体を前進させる作品としてスコット・ラングをメインに据えたのはものすごく納得度の高いものだったし、シリーズを通して描いてきた「量子世界」がマルチバース・サーガの導入にもなっていく。というのも見ていて面白かった。

ヒーローとしてのスコット・ラング

他のキャラクターに比べて常に巻き込まれているスコットは「父親」という印象が強く、「ヒーロー」というのはまたなんとなく違う印象を持っていた。もちろん、1作目から「パパ=キャシーのヒーロー」というのはずっと描かれてきたテーマだが、今作ではそれをより突き詰めたスコット・ラングのヒーロー性が描かれていたと思う。

それを一番感じたのはやはりカーンとのラストバトル。自分の命を引き換えにでもキャシーやホープの命を守ることを通じて世界を守るという姿。スコットは常に半径5メートルくらいの自分の手が届く範囲のためにがんばる。という印象を持っていて(だからこそキャシーは「手が届かない範囲でも助けようとするべきだ。」と言うわけだけど)、とはいえスコットはキャシーが世界の全てであり、今回はキャシーを守ることが世界を守ることに通じたから(今後の展開を考えると一時的にとはいえ)世界を守ることに繋がった。

何度でも立ち上がるその姿はキャプテン・アメリカ=スティーブ・ロジャースにも通じ、「まだやれるぞ。」と言わんばかりのボロボロになりながらもカーンに立ち向かうスコット・ラングは娘のためならキャプテン・アメリカのように敵に立ち向かえるということを描いたのがとてもよかったし、スティーブ・ロジャースのオタクとしても胸が熱くなった。

また、ホープや当然ではあるがキャシーに比べ、アベンジャーズでの戦闘経験が理由なのかスコットの異常な戦闘能力の高さが見られたこともよかった。

では、なぜものすごく面白かった。と感じなかったのか。

やりたいことはよくわかった。が、ものすごく面白くはなかったというか、なんとなく全体が今後の展開に対するブリッジの要素が強く感じ、映画の始まりと終わりを見るとわかるようにスコットにとって「大変なことが起こったけど、とりあえずなかったことになった気がするし、大丈夫かな。」で終わったことも、それもスコットらしいといえばスコットらしいし好きなんだけど、見ている側としては「大丈夫じゃないんだろうな。ロキS2に繋がってくんだ。エターナルズももういつでも絡めそうだな。」みたいな「事務的な情報」が勝ってしまったというか。

これはもう長く続いていくシリーズなのでしょうがないとは思うのだけど、ワカンダフォーエヴァーのシュリの心情に沿った物語やファルコン&ウィンターソルジャーでのスティーブからサムへの継承、ドクター・ストレンジMoMでもストレンジの心情の前進は描かれたわけで、もう少しスコットに心情の変化とかあればよかったのに。と思う一方で、いや、スコットはそれがないからいいんじゃない。と思う自分もいることにいま気づいた。しかし、キャシーに感化される形で社会に対して自分のあり方を変える…くらいはあってもよかったような気はしなくは…ない……キャシーももう少し見たかった。

とにかく本作は観客側にマルチバース・サーガの現在とこれからの提示という役割があったわけで、それはできていたと思う。ポストクレジットでの『彼』に関しても、映画とドラマを本格的に同列に扱っていくんだなあ。みたいな。正直驚きはしなかった。ドラマやるもんね。くらい。MCU全体の要素とアントマン&ワスプ:クアントマニア単独作の要素の比重なのかバランスなのか、自分にはハマらなかった。2回目を見たりすると変わるのかもしれないが、それも配信を待てば4月くらいには見られるようになるだろうし。じゃあ待てばいいや。みたいになっていて、そこら辺は感覚が麻痺している自分もいる。

その他思ったこと

  • 量子世界での民主化運動を描くとは思っていなかったので驚いた。が、キャシーのデモへの参加や社会に対する問題意識といったものと上手に描けているとも思えなかったので、ここは時間が足りなかったように感じる。2時間30分くらいあってもよかったのでは。
  • 現代のアメリカのティーンエイジャーは環境意識や政治に対する意識が強い。というのをネットの記事等で読んだことがあるがキャシーはまさにそんなキャラクターであった。今後リリ・ウィリアムズとかと絡んでいくのかはわからないがぜひ見たい。
  • ジョナサン・メジャースのカーンはロキでもよかったけど、今作でまたその魅力が上がったな。と。コミックのカーンをあまりよく知らないが、MCUのカーンもまた、MCUのキャラクターらしくひとりの人間としての魅力があって、今後が楽しみ。クリード3が数ヶ月遅れて公開されることに耐えられない。
  • モードックの正体がダレンだったのは驚いた。驚いたがまさか退場してしまうとは。しっかし「クソ野郎であることをやめた」もなんかアッサリとしていて、何か見逃していただろうか。1作目のダレンにそういった描写があったっけ。と思ったり。彼の退場は少し笑えるが感動的みたいなのを目指していたのだろうけど、あんまり上手くいってなかった。と感じた。真面目にやるなら真面目にやれ。キャシーとの絡みもちゃんと描いてくれ。どういう気持ちで見ていいかわからなかった。
  • ミシェル・ファイファーが最高。ずっとうっとりして見ていた。ただ、スーツ着て欲しかったな。ピム博士もだけど。アントマン&ワスプとしての「3作目」があるとするなら、3世代でヒーロースーツ着るやつやって。
  • ウィリアム・ジャクソン・ハーパーが大好きなので彼は再登場希望。

くらいだろうか。

クロスオーバーの要素が強くなるとどうしても「単独作として面白いもん見せてくれ」となるのでバランスは難しいがフェーズ5は『ザ・マーベルズ』が面白ければいいや。くらいに思っている。

ただ、『Msマーベル』もドラマが終わってすぐ宇宙に行ってしまうのが少し残念で、もう少し地に足のついた場所での活躍も見たいという気持ちもあって、それはクアントマニアにも思うことだった。シリーズが進みスケールが大きくなることで、窓の外を見てもヒーローは見えず、多元宇宙のどこかで戦っている。というのは少しだけ寂しい気持ちになったりするのでそこらへんのバランスはうまいことやってくれると嬉しい。

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