ぼんやりミュージカルファンが初めて2.5次元舞台ウマ娘『Sprinters’ Story』千秋楽を配信で見た感想

千秋楽公演を配信で見て、これはちゃんと感想を書こう。と思い、いまに至っている。

結論から言うと滅茶苦茶よかったので少しでも興味があったら見てくれ。に尽きる。なぜそう思ったか。どこがよかったのか。できる限り言語化できたらと思う。

ミュージカルファンでウマ娘のオタク

まず、自分は数年前に劇団四季『ノートルダムの鐘』を見て以来、劇団四季をメインに年に数回ミュージカルを見るようになったぼんやりミュージカルファン。他のわかりやすいところだと宝塚はライビュやテレビ放送で数回、2.5次元は舞台もミュージカルも見たことがなく、強いて言えばFNSで歌って踊る刀剣乱舞のひとたちを見たことがあるくらい。

ウマ娘に関してはアプリから入りアニメ1,2期、シンデレラグレイは履修してナンバリングイベントは配信で見る。楽曲はサブスクで履修済み。といった具合のオタクである。割としっかりハマっている。

まずウマ娘が2.5次元で舞台化する。と聞いたとき、佐藤日向(敬称略)が出るというのもあってスタァライトみたいな感じか。と思ったような気がする。そのスタァライトもアニメは見ているけど舞台は見たことがなく、2.5次元舞台をやっているらしい。という程度で、『2.5次元舞台がどういったものなのか正直わからなかった。まぁ見終えたいま、あらためて何をして『2.5次元』なのかよくわからないのだが、結果的に言ってしまえば開幕前は正直なところ興味はあるが現地で見たい。と思うに至らなかった。ご時世的に配信でも見られるだろう。という思惑もあった。季節的に新型コロナウイルス感染者が多い時期に東京に行くのもな。というのもあったが。

とにかく、やるのは知っているが能動的に情報を仕入れたりもせず、やるんだなあ。配信があれば見たいが配信のアナウンスもないな。と思っていた。その矢先に公演中止のアナウンスと、ほぼ同時に某アカウントが本公演を揶揄するツイートが流れてきた。

ゲネプロの映像を見た印象

公式で公開されているゲネプロ(最終リハーサル)映像

あまりものを見たことがない人間が言うのも筋違いだとは思いつつ、まず、2.5次元ミュージカルをシュールだと外野が冷笑すること自体周回遅れであり、それ以前に失礼だと思う。自分自身過去に『テニスの王子様』や『弱虫ペダル』のミュージカル映像を見て笑ったことがあるので自戒も込めてだ。長くコンテンツとして続いているということは一定のファンに受け入れられ愛されている証拠でもあるだろう。それとはまた別にミュージカルや舞台演劇を見たことがないとなんとなく小馬鹿にしてしまう気持ちもわからなくはない。数年前の自分にもそういう気持ちは少なからずあった。しかし、少しでもミュージカルを好きになってしまっている自分はこの映像を見て、素直に「劇場で見たら面白いだろうな。」と感じた。舞台演劇というのは自分からその魔法にかかりにいくという側面もある。

いくつか舞台演劇を見たことで『劇場で見たときにどう感じるか』という想像力が多少ついたのだと思う。観劇の筋肉とでも言おうか。

シュールだと揶揄されたレースシーンに関しては正直ゲネプロの映像を見ても全く気にならなかった。ウマ娘にハマり出した頃、実際の競馬中継を初めて見たときに感じた「競走馬が走るときってこんな音するんだ。」と驚いた気持ちが蘇ったし、タップという表現と組み合わせるのも面白く感じた。この「面白く感じた」というのが前述の「どう感じるかの想像」である。

片っぱしからゲネプロの映像や公式の短いドキュメンタリーを見て、これは見たくなってきたぞ……と思っていたら千秋楽の配信が発表されたのだ。

『ウマ娘』というコンテンツについて

そもそも『ウマ娘』というコンテンツをどう捉えているかはひとそれぞれだと思うが、自分は『史実の競走馬に対する敬意と願いと祈り』のコンテンツだと捉えている。栄光を再現することも、叶わなかった願いを叶えることも、運命さえも変えることができる。そこにゲーム内の育成シナリオ、アオハルでの『青春』やクライマックスでの『強さや勝利への渇望、グランドライブでの『ウイニングライブの意味』といったものが積み重なっていく。どの要素も重要で、当然ユーザー(トレーナー)によってもその重きは異なるだろう。

個人的には史実に対するifの要素が好きで、メインシナリオのサイレンススズカやアドマイヤベガの育成シナリオには泣かされた。『祈り』の要素だ。そうなってくると本公演でどうしても注目してしまうのはケイエスミラクルであった。演じる佐藤日向がスタァライトの推しこと星見純那を演じているというのもある。

さて、長々と書いたがまだ本公演の内容にほとんど触れていないことに驚いている。ここから本公演の内容・感想に触れていく。基本的には史実ベースなのでネタバレもクソもないだろう。読んでネタバレを見てしまった。と思うのであればもう配信チケット買って見てほしい。絶対に損はしない。

舞台「ウマ娘 プリティーダービー」~Sprinters’ Story~

率直な感想としてはこの感想ツイートに尽きる。

ウマ娘のアニメやコミカライズ、ナンバリングイベントと見てきたが、アプリの中でも2大要素である『レース』と『ライブ』どちらもひとつのメディア展開の中で見せてたものは意外とないのでは。と、ふと思った。アニメやコミカライズはウイニングライブというものはあるが演出的にしか描いていないし、ナンバリングイベントは当然ライブが主体でありライブ以外の要素はあまりない。そういったメディア展開をしてきた中で今作『Sprinters’ Story』ほどレースとライブを全編通じてどちらもきちんと見せたものはなかったのではないか。

つまり、史実をベースにその史実とifの物語を同時に描きレースもライブもきちんと見せるということをしていて、それは日々触れているアプリの世界観に最も近い『ウマ娘』であった。

また、2.5次元はおろか舞台演劇に慣れ親しんでこなかったひとたちが慣れ親しんできたものを通じて触れてもらうという導線ができており、開幕数分後には「本公演の楽しみ方講座」のような一幕もある。とにかく「舞台って面白いんだ!」と思って帰ってもらおうという気概を感じる。そこに関しては完全に舐めていた。他の舞台演劇にも興味を持ってもらうための最初の一歩を背負っているというか。佐藤日向のツイートを見るとものすごくそれを感じる。

王道ではない『短距離』の物語

物語は王道の中長距離路線を挫折したダイイチルビーが短距離路線に転向していく中でダイタクヘリオスやケイエスミラクル、ヤマニンゼファーと出会い成長していく。という、言ってしまえばいつものウマ娘であり、ケイエスミラクルの行く末に向かっていく話だ。そこにルビーとヘリオス、ゼファーがいる。しかし実在した4頭の競走馬の出走レースをベースに物語にする。という工程にはやはり唸るものがある。

本作のテーマは『走る喜び』『瞬く間に過ぎる時間』だろうか。

ヘリオスの走る喜びがルビーを通じ、ミラクルに伝わる。ゼファーはその喜びを知っているがどうすることもできない。ケイエスミラクルは瞬く間に駆け抜けてしまった競走馬でもあり、その運命を少しだけ変え、あったかもしれない過去を、彼女たちの物語を描く。

ルビーの「私たちのレースはいつも瞬く間に終わってしまう。短距離ウマ娘の宿命で共に競い合える時間は1分と少ししかない。本当はずっとこうしていたいくらいなのに。」今作を象徴するセリフでもあり、キャラクターとしてのルビーの変化・成長を象徴するセリフでもあった。

ウイニングライブとミュージカル

正直開始数分オープニングで泣いていた。主人公一人ひとりが「私が!」「俺が!」「私が!」「ウチが!」と勝利を渇望しイントロが流れ『Overrunner!』を歌うオープニングがたまらない。見返してふと気づいたが主要キャラクターの一人称が全員違う(ルビーは「わたくし」ゼファーは「わたし」)んですよね。どこまで意図的かわかりかねるがそこもいい。

主題歌『Overrunner!』

『GIRLS’ LEGEND U』で言葉を重ねる歌詞がたまらなく好きな自分にとって『Overrunner!』はそれに通じるものを感じた。『ウマ娘』の主題歌としてあまりにも正統派。

ゲーム主題歌『GIRLS’ LEGEND U』

G1のウイニングライブは安田記念で『本能スピード』、マイルCSでは『Never Looking Back』が歌われたが『本能スピード』は最高だった。ナンバリングイベントでも何度も歌われた曲だが今作ではアプリ内の間奏中のダンスまでしていて意味がわからなかった。しかも言うまでもなく滅茶苦茶カッコいい。『Never Looking Back』はハーフアニバーサリーで実装された曲。サプライズ感がありつつもあそこで歌われる楽曲としては納得の選曲であった。

不満点ではないのだが『Find My Only Way』に関してだけは、名曲すぎてそんなん流れたらイントロで泣く。ただ、アニメ1期からの楽曲ということもあり、少しだけ「それがアリになってしまうと今後もそれを歌うことになるのでは…?」と思ってしまった。この選曲に関してだけは新曲でもよかったのではないか。とは思う(しかし何度見返しても毎回泣いてしまう。ルビーの着地点でもあるので余計に)。

あとは2.5次元舞台というものをあまりわかっておらず、ゲネプロの映像を見てゲームの曲を歌うことはわかっていたが、それを歌うことがイコールでミュージカルではないのでは?とも思っていて、ウイニングライブとは別にミュージカルパートがあるというのは、見るひとによっては困惑するかもしれないが自分にとっては嬉しい誤算だった。し、キャラクター同士の関係性が大好物な自分にとってミュージカル楽曲のデュオはどれも最高。音源化しないんでしょうか。してください。

あそこの曲よかった。という話はいくらでもできるがいかんせん曲名がわからない。ルビーとミラクルの部屋での曲はあまりにもいい。礒部花凜、うますぎる。

メインキャストと覚醒する山根綺

メインキャストに関しては礒部花凜の歌唱力がとんでもないのと何より佇まいが最高。佐藤日向の抜群の安定感と安心感を感じた。今泉りおなに関しては、本人も語っていたがいかんせん他の3人と比べると出番が少ないのだが、ケイエスミラクルとのシーンはどこもよかった。ヘリオスに合わせてはしゃげるキャラクターというのも重要であり、抑えとしてとてもいい仕事をしていたのではないだろうか。

中でも座長・山根綺が素晴らしかった。舞台は初とのことで礒部花凜、佐藤日向と比較すると素人目にライブ・ミュージカルパートでは思わず「がんばれ…!」と思う部分はあったが、それも常に全力のダイタクヘリオスというキャラクターにも合っている(意図的な演出であればスミマセン)。配信で見ていたのもあってよく表情が見られたのだが、コロコロ変わる表情はとても愛らしい。特にダイイチルビーを見つめる表情は常にいい。マイルCS前での宣戦布告、死ぬかと思った。山根綺の顔が滅茶苦茶いい。ギャップで死ぬかと思った。

ゲネプロやドキュメンタリーの映像でも見られるダイタクヘリオスの「負けねえ!てか勝つ!バカ楽しいレース、見せてやっから!」というセリフが作中の彼女の中でも1,2位を争うカッコいいセリフであることは間違いないのだが、ここも千秋楽では全くニュアンスの異なるものになっている。初演の時点で千秋楽に近いものになっていたのか、公演を重ねていく中で変化したのかはわかりかねるが、千秋楽でのこのセリフがあまりにもカッコいいのだ。カッコよすぎて何度見ても泣いてしまう。

後述するがマイルCSでのパドックの山根綺、カッコよすぎて泣いてしまうのだ。思い出すだけで情緒がぐちゃぐちゃになってウインディちゃんになってしまうのだ。

総決算『マイルCS』

本作最大の見せ場は言うまでもなく『マイルCS』だろう。全てが最高。カッコよすぎる。パドックでのタップは個人的には今作でトップクラスでシーンであった。まさかタップの演出をこんなに好きになるなんて思っていなかったよ。使命感に満ちたミラクルに、まさに華麗。ダイイチルビー。そしてレースを楽しむこと。その上で勝つという信念を持ったヘリオス。あれ、見得切ってますよね。最高にカッコいい。カッコよすぎて泣く。ほんと、山根綺がカッコいいんですよ。

総括に変えて

散々書いてきたが、とにかく本作を構成している全ての要素がものすごく『ウマ娘』であり、その要素が高い精度で出力されていた。そして舞台でやる必然性もあった。少なくとも自分はそう感じた。次回作があるのかないのかわからないがやってほしいし、やるのであれば次こそは現地で見たい。と思わせてくれる1作であった。

重ねてになるが少しでも興味があるのであればぜひ見ることを勧めたい。

気になった点

と、ここまでポジティブな感想だけ書き出したが、不満点ではないにせよ少し気になった点を挙げておこうと思う。主に配信で気になった点になる。ちなみにイープラスで視聴した。

  • 若干の映像の乱れがあったこととアーカイブでそのままだったこと。
  • 実況の2人の映像と音声のズレ。劇場内で離れた場所から中継していることとそれをまた配信で見ているのも影響しているのかはわからないがBlu-rayでは調整頼む。
  • 本来劇場で見るものであり配信はおこぼれというのは思いつつ、カメラワークはもう少しどうにかならなかっただろうか。特に『ウマぴょい伝説』の「あたしだけにチュゥする」でルビーとヘリオスに急いで切り替わって「なんかあった」ことだけ察する感じ。Blu-rayでは映像作品としてよくなっていることを願う。
  • AirPodsで聞いていたのだが、たまにビニールの擦れる音のようなノイズが聞こえたのは気のせいだろうか。

ほとんど映像配信で気になったことで、作品としては好きが大きすぎるのもあるだろうがネガティブな気持ちがほとんど湧かなかった気がする。

ツイッターでも少し触れたが牝馬であるダイイチルビーがブルマではなく短パンなのもよかった。正直ウマ娘というコンテンツはそういうところでモヤモヤがないわけではないコンテンツなのでメディア展開の際にチューニングされるのはとてもいいことだと思う(と、同時に、チューニングが必要な要素であれば最初から不要だとも思うのだが)。

そんなところだろうか。あらためていい舞台であったと思うのでぜひ第2弾を頼む。ヘリオス山根綺はまた見たいのでメジロパーマーを主役にして続編でもあり新作でもあり…みたいなのどうでしょうかね。それでなくとも気長にお待ちしております。そのときにはぜひ現地で見られるといいな。などと思います。

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  • […] さて、先日『舞台ウマ娘』で初めて2.5次元に触れたのだが、とても面白かった(それについてはこちらに書いた)。自分自身2.5次元に初めて触れた身だが、今作で観劇そのものが初めてだった。という方も多かったらしく、そういった客層を見越した演出も見受けられた。 […]

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